光渦とキラル物質
光には、波長や偏光だけでなく、空間的な「形」があります。
なかでも、光の位相が伝播軸のまわりを螺旋状に変化する光を光渦と呼びます。光渦は軌道角運動量を運ぶことができ、通常の平面波とは異なる空間構造をもつ光として、近年注目されています。
一方、分子や結晶の中には、鏡に映した構造と元の構造を重ね合わせることができないものがあります。このような左右非対称性をキラリティと呼び、キラリティをもつ物質をキラル物質と呼びます。
私たちは、光渦がもつ軌道角運動量と空間構造が、キラル物質の光応答にどのような影響を与えるのかを理論的に研究しています。
光渦とは
光渦では、光の位相が方位角 φ に対して
exp(iℓϕ)
のように変化します。整数 ℓ はトポロジカルチャージと呼ばれ、位相が光軸のまわりを何回巻くかを表します。
理想的なパラキシアル光渦では、光子一個あたり
Lz=ℓℏ
の軌道角運動量を運びます。光軸の中心では位相を一意に定められないため、強度がゼロとなる位相特異点が現れ、典型的にはリング状の光強度分布が形成されます。
光渦の軌道角運動量は、微粒子の回転、原子・分子の励起、光通信、量子情報など、さまざまな光と物質の相互作用に新しい自由度を与えます。

キラル物質とは
キラル物質とは、その構造を鏡に映したとき、元の構造と完全には重ね合わせることができない物質です。
右手と左手が互いに鏡像でありながら重ならないのと同様に、キラル分子には右手型と左手型に対応する二つの鏡像異性体が存在します。ただし両者の多くの物理的・化学的性質は同一であり、その違いを光学的に識別するには、光自身がもつキラリティを利用する必要があります。
代表的な方法が円二色性です。右円偏光と左円偏光に対する吸収率の差を測定することで、物質のキラリティに関する情報を読み出します。光場の局所的なキラリティとキラル分子の励起率の非対称性は、光学的キラリティ密度を用いて記述できます。

キラル物質を簡単に見分けることはできるのか?
右手型と左手型のキラル物質は、形は異なっていても、質量、エネルギー準位、通常の吸収スペクトルなど、多くの物理的・化学的性質がほとんど同じです。そのため、通常の光を当てるだけでは、両者を簡単に見分けることはできません。
代表的な識別方法が円二色性です。右円偏光と左円偏光を物質に照射し、それぞれの吸収量のわずかな違いを測定します。この差を調べることで、物質が右手型か左手型かに関する情報を得ることができます。
しかし、一般にこの吸収差は小さく、高感度な測定が必要です。そこで私たちは、光渦がもつ空間構造や角運動量を利用することで、従来とは異なる方法でキラル物質の左右性を読み出せないかを研究しています。
